Approach

活動内容・研究アプローチ

私たちの活動は、次の「2つのコア」に貫かれています。

  1. 完全な検証可能性(オープンサイエンスの実践)
  2. 迅速で検証可能な公開(Zenodo、および適したコミュニティがある場合の審査)

1. オープンサイエンスの実践

誤りを隠さない、それが科学の価値

私たちは、過去の誤りを隠しません。これまでに公開した技術報告書の中で、誤り(計算バグやデータ整合性の問題など)が見つかった際は、単に数値を修正するだけでなく、誤りがどう生じ、どう発見されたかのプロセスまで含めてすべてを公開しています。

研究は本来、地道な試行錯誤の積み重ねで成り立つものであり、いきなり真実にたどり着けるものではありません。もちろん誤りは無いに越したことはありませんが、この泥臭い過程を隠さずに見せることこそが、第三者に「なぜその結論に至ったのか」を納得してもらう上で重要だと考えています。

これは失敗の記録ではありません。検証可能性そのものが科学の価値であるという、私たちの立場の表れです。

実例の一つとして、JOINに起因するデータ整合性バグを発見・修正した経験が、JOINを使わない新しいデータパイプラインの設計につながりました(組織概要を参照)。

Zenodoに公開された「Technical Report v1.12: Correction of the Empirically-Detected Texture-Axis Transition Point(σ_stat)— Errata and Supplement to Technical Report v1.10」のレコードページ。JOIN_MISSバグとその訂正内容が記載されている。
その訂正を実際に記録した正誤票そのもの。こっそり修正するのではなく、公開しています。

なぜ今、オープンサイエンスが必要なのか

オープンサイエンスとは、研究のプロセス、データ、手法を、誰もが検証・再利用できる形で公開していこうという考え方です。特定の立場の研究者に限らず、研究に関わるすべての人に関係するものです。

このアプローチを重視する背景には、現代の研究環境が抱える構造的な問題があります。

  • 再現性の危機:査読を通過した論文であっても、後から再現できないケースが相次いで報告されている。
  • 査読制度の限界:データの改ざんや捏造が査読で見抜けず長年見過ごされた事例があり、査読自体も限られた時間の中で人間が行う審査であるため完全ではない。
  • 「機関の看板」への過信:有名大学の所属であっても不正スキャンダルは起きており、「所属機関の看板=信頼の裏付け」という前提は正確ではない。
  • 再現不可能な実験環境:非公開のハードウェア構成や独自のクラスタ、多くの研究者には用意できない規模の計算資源に依存した結果は、元のチーム以外の誰にも独立して検証できない。

検証可能性が必要なのは、所属の有無に関係なくすべての研究者に共通する話です。だからこそ私たちは、プロセスとデータをすべて公開し、誰でも検証できる状態にしておく「オープンサイエンス」を実践しています。

なお、オープンサイエンスは誰もが選べる方法とは限りません。企業の研究には営業秘密が、研究機関の研究には機密保持の義務が伴うことがあり、手法やデータを公開できない立場も存在します。

2. Zenodoという選択

私たちは、成果の公開プラットフォームとして、CERN(欧州原子核研究機構)が運営する学術リポジトリZenodoを採用しています。公開された記録には恒久的な識別番号(DOI)が付与されます。

Zenodoを選ぶメリット

  • 圧倒的なスピード感:査読を待たずに、その日のうちに公開・引用可能な記録を残せる。実際、私たちが公開した技術報告書は、公開からわずか1日で複数回ダウンロードされるという、査読付き論文では得られない速さでの反応がありました。
  • 「先行権利」の確実な証明:ある発見について「自分が最初にたどり着いた」ことを日付入りで公に示せる。似た着想を複数の人が別々に思いついた際にも、「この日付に既にこの結果を持っていた」という、第三者が確認可能な証拠になります。
「Artificial intelligence and machine learning」コミュニティのバッジ、Openアクセスのバッジ、公開済みの記録「SSIM Limit Theory: Statistical Breakdown Fingerprints(Δμ, Δσ)」が表示されたZenodoのレコードページ。
実際に公開した報告書の一つ。Zenodoの審査制コミュニティ「Artificial Intelligence and Machine Learning」に承認されています。

限界と、それを補う私たちの工夫

ただし、Zenodoでの早期公開にはトレードオフもあります。査読を経ていないため、一般的な「お墨付き」は得られず、誤りがあればそれもそのまま公になってしまいます。実際、私たちも公開後に誤りを見つけ、訂正した経験が複数あります(詳細は発行物一覧を参照)。

この限界を補う一つの方法として、テーマに合った審査制コミュニティが存在する場合は、そこへの参加を申し込むことがあります(必須の手順ではなく、今回のテーマではAI/ML分野のコミュニティが適していたため実施しました。詳しくは組織概要を参照)。誰でも無審査で公開できる通常のZenodoとは違い、キュレーターが実際に内容を確認した上で承認するコミュニティに参加できれば、査読ほど厳密ではないにせよ、「第三者の独立した目線によるチェック」を一段通過したことになります。

3. 知財戦略としてのライセンス方針

私たちは、公開する技術報告書に一貫して「CC BY-NC(表示・非営利)」ライセンスを採用しています。これは単なる形式的な選択ではなく、明確な意図を持った知財戦略です。

MITライセンスのような「緩いライセンス」が抱えるリスク

例えば、MITライセンスのように制限の緩いライセンスで公開した場合、以下のようなリスクが生じます。

  1. 企業がその成果を無償で自由に利用する。
  2. そこから発展させた応用技術について、企業が独自に特許を取得する。
  3. その結果、元の発案者自身が、自分の成果の応用・発展形を自由に使えなくなる。

CC BY-NCを選ぶ理由

CC BY-NCは、事前の許諾なしには「商用利用」を認めないことで、こうしたリスクを防ぎます。企業が私たちの研究成果を商業的に利用したい場合は、必ず個別に許諾を得る必要があります。これにより、対価のないまま一方的に成果を搾取される構造を未然に防いでいます。

目的は独占ではなく「自由な利用」を守ること

こうしたライセンス選択の一番の目的は、私たち自身を守ることだけではありません。「他の研究者が安心して私たちの成果を使い、引用し、その上に新たな研究を積み重ねていける環境」を守るためです。

自由に利用可能

研究目的の利用・引用・改変:誰でも自由に行えます。

要許諾

商用利用:個別の許諾が必要です。

私たちが制限しているのは商用利用だけであり、研究コミュニティの中での自由な循環やオープンな利用そのものは、むしろ積極的に守り、推進したいと考えています。